2026.09.20
犬と暮らす家
こんにちは、林です。
今日は「犬と暮らす家」について、少し建築寄りの話をしてみたいと思います。
最初にお伝えしておくと、私は自分で犬を飼ったことはありません。
ただ、母の実家には犬がいて、子どもの頃は毎週のように会いに行っていました。
当時はもちろん、床がどうとか、窓の位置がどうとか、そんなことは考えていませんでした(笑)
でも今、家をつくる側になって犬との暮らしを考えてみると、人にとって何でもないことが、犬にとっても同じとは限らないんですよね。
犬は四本足で歩き、人よりずっと床に近い場所で過ごします。
音やにおいへの感じ方も人とは違いますし、走ったり、急に止まったりすることもあります。
夏の日中、家族が出かけている間も家の中で過ごします。環境省も、高温の室内でペットを留守番させることを熱中症につながり得る状況として注意喚起しています。
そう考えると、「犬用の設備を何にするか」の前に、建築として考えられることが結構あります。
床は「傷に強いか」より、犬がどう動くかを見る
犬と暮らす家の床というと、
「爪で傷がつきませんか?」
という話になりやすいと思います。
確かに、無垢の床なら傷はつきます。
参建では傷や色の変化も含めて、自然素材が年月とともに変わっていくことを「経年美化」と捉えています。
ただ、犬の立場から見ると、傷とは別に「滑りやすさ」も考えたいところです。
犬は四足で歩きますし、室内で走って急に方向を変えたり、止まったりすることもあります。
そこで床材を選ぶときには、見た目や掃除のしやすさだけでなく、犬が踏ん張りやすいかという視点も加えたいと思います。
特に気をつけたいのは、床材そのものだけではありません。
リビングから廊下へ走る。
曲がって階段へ向かう。
窓の外を見て急に方向を変える。
そんな犬の動きまで間取り図の上で想像することです。
床材が切り替わる場所や段差も含めて見ていく。
無垢材についても「犬にいい」と一括りにはできません。樹種や仕上げによって感触も違います。
できればサンプルを触るだけでなく、犬が歩くことまで想像しながら選ぶ。
床は人が見る面積も大きいですが、犬にとっては毎日身体に触れる場所でもあります。
そう考えると、選び方が少し変わるのではないでしょうか。
玄関は「足洗い場」より先に飛び出しを考える
犬と暮らす家で人気の設備というと、玄関近くの足洗い場があります。
確かに便利だと思います。
ただ、設計者としては、その前に玄関とLDKの関係を見ておきたいです。
たとえば、リビングのドアを開けると、そのまま玄関まで一直線。
そして玄関ドアを開ければ外。
この間取りがそのご家族と犬に合っているかは、一度考えておきたいところです。
来客で玄関を開けることもあります。
宅配便を受け取ることもあります。
子どもが学校から帰ってきて、ドアを開けることもあります。
そういう毎日の場面で犬がどこにいるのか。
必要であれば建具で一度区切れるようにする。後からゲートを取り付けられる壁やスペースを考えておく。
これは豪華な犬用設備ではありません。
でも、毎日暮らすうえでは、こういうところのほうが大切かもしれません。
もちろん散歩から帰った後の動線も考えます。
リードをしまう。
足を拭く。
雨の日なら濡れた身体を拭く。
タオルを片付ける。
足洗い場をつくるなら、その前後の動きまでつながっているかを見る。
設備一つではなく、玄関全体で考えたいところです。
窓は「犬が外を見られる高さ」が正解とは限らない
これも面白いところです。
犬と暮らす家の事例を見ると、犬が外を眺められるように低い位置に窓をつくるアイデアがあります。
外を見るのが好きな子なら、いい場所になるかもしれません。
でも、すべての犬にそれがいいとは限らないと思います。
道路を歩く人に反応する。
散歩中の犬が見えると興奮する。
車の動きが気になる。
そういう子もいるでしょう。
そう考えると、
「犬がいるから低い窓」
ではなく、
「この子は外を見るのが好きですか?」
「人や犬が通ったときはどうですか?」
というところから考えたい。
道路側なのか庭側なのかでも違います。
窓の高さ、犬の居場所、道路からの距離、外からの視線。
これらを一緒に考えるわけです。
窓は一度つくると、家具のように簡単には移動できません。
だからこそ、犬用の工夫を取り入れる場合も、「一般的にいいと言われているから」ではなく、その子の性格まで聞いて決めることが大切だと思います。
犬の居場所は、広さより「周りの環境」を見る
ケージやベッドをどこに置くかも、設計段階で考えておきたいところです。
よくあるのが、
「階段下が空いているから、ここを犬のスペースにしよう」
という考え方です。
もちろん、それが合う場合もあります。
ただ私は、空間が余っているかどうかだけでは決めたくありません。
そこを家族が頻繁に通らないか。
玄関チャイムや道路からの音が入りやすくないか。
西日が強く当たらないか。
エアコンの風が直接当たり続けないか。
家族の気配を感じられるか。
そういう周囲の環境も見ておきたいと思います。
犬によっては家族の近くが好きな子もいれば、少し離れたところで落ち着きたい子もいるでしょう。
ですから「犬スペースは○帖必要」という話ではなく、
その子が普段どんな場所で寝ているか
を聞くほうが、設計のヒントになる気がします。
家が完成してから余ったところにケージを置くのではなく、最初から家具の一つくらいの感覚で居場所を間取りに入れておく。
それだけでも暮らしは変わると思います。
犬は床に近い。だから空調も「人の高さ」だけで考えない
そして、参建として特に考えたいのが温熱環境です。
犬は私たちより低い位置で過ごしています。
伏せたり寝たりすると、さらに床に近くなります。
また、環境省は犬や猫は密な毛に覆われ、汗腺が足の裏などに限られるため、体温調節が苦手で特に暑さに弱いと注意喚起しています。
ですから「リビングの室温計が何度だから大丈夫」と一つの数字だけで決めるのではなく、犬種や年齢、体調なども含めて、その子に合った環境を考える必要があります。
特に考えたいのが留守番です。
人が暑ければエアコンをつけられます。
寒ければ設定を変えられます。
でも犬だけで留守番している時間は、それができません。
だから私は、犬と暮らす家ほど、一部屋だけではなく家全体の温度環境を考えておく意味があると思っています。
参建では高気密・高断熱を土台にして、エアコンをどこに置き、空気をどう送り、どこから戻すのかまで計画しています。
床下エアコンも、単に床を暖める設備というより、家の中の温度差をなるべく小さくしていくための考え方の一つです。
もちろん、住宅性能だけで犬の健康を守れるという話ではありません。
ただ、人が立っている高さだけでなく、実際に犬が長く過ごす場所の環境を見る。
これは設計段階から考えておきたいことです。
「犬と暮らす家」ではなく「この子と暮らす家」
ここまで考えてくると、私は「犬と暮らす家」という一つの正解があるわけではないと思います。
小さな犬と大きな犬では違います。
若い犬とシニア犬でも違います。
外を見るのが好きな子。
物音に反応しやすい子。
家族のそばにずっといたい子。
一人で静かに寝たい子。
それぞれ違います。
だから打ち合わせで本当に聞きたいのは、
「犬を飼っていますか?」
だけではありません。
どこで寝ていますか。
家の中ではよく走りますか。
外を見るのは好きですか。
散歩から帰ったら何をしますか。
留守番は何時間くらいですか。
そんな普通の話です。
そこから床を考える。
玄関を考える。
窓を考える。
居場所を考える。
空調を考える。
犬用の設備を増やすことより、こちらのほうが建築としては大切な気がします。
「この子は、この家でどんな一日を過ごすんだろう」
そこを想像する。
そしてもう一つ、
「この子は、どんな子なんだろう」
そこまで聞いてみる。
犬にも人にも心地いい家の答えは、一つではありません。
だからこそ、犬用の設備から選ぶのではなく、その子と家族の暮らしから一緒に考えていければと思います。